笑えなかったあのときを
夜の底一人ぼっちで乳をやる 我を見つめる冬の三日月 中谷祐子さん(静岡県) 第2回入選 |
ここまで楽しい歌が多かったけれど、「出会いから子育てまで」ってそれだけじゃないよね。 |
喜怒哀楽――すべてが歌を詠む時のインクになります。 嬉しいことも楽しいことも歌に詠むことはできますが、せつなさも哀しみもむなしさも不安も、作者のどんな心も、この57577という小さな31文字の器は受け止めてくれます。 |
わずかな文字数ですが、実は奥行きが豊かな、広い心の持ち主――。 それが【三十一文字(みそひともじ)】の短歌です。 |
「さみしい」「不安」って一言も書いていないのに、しんしんと伝わってくる気持ちがあるね。 |
笑えても、一首。笑えなくても、一首。 正直なココロと向き合って生まれた一首だからこそ、他の誰かにも届き、大事に読み継がれ、語り継がれていくのかもしれません。 |
正直な気持ちを作品に。 楽しいことだけをあえて歌にしなくてもいい。 |
時には、誰にも言うことができなかった、ありのままの歌をどうぞ。 短歌は、時として時代も超えた【カウンセラー】にもなります。 しんどかったときにもぜひ【三十一文字(みそひともじ)セラピー】を! |
こんな作品もあります
子どもまだ?どこに向かった問いなのか 生まぬわたしか生めぬこの世か 鈴木立子さん(静岡県) 第5回入選 |
児の頬をうちしその故忘れたり されど古希でも痛む心よ 上田紀子さん(千葉県) 第6回入選 |
手探りで子育てしている本日の Google検索ワードは「浣腸」 倉松エリコさん(滋賀県) 第2回入選 |
誕生日というものなき君の名を 今も時折考えている 関根真希さん(北海道) 第3回審査員特別賞 |
障害の区分認定用の診断書 なんだかなぁって君抱き寄せる 小山肇美さん(三重県) 第4回優秀賞 |
果実のようにイカのように
南国の果実のごとく陽を浴びて 生後十日の子が眠る籠 種田淑子さん(兵庫県) 第1回入選 |
まだ生後十日の我が子を「南国の果実」に喩えた作者。 陽射しを浴びて、元気いっぱいに育ってほしいという親心がにじむ作品です。 ”マンゴー”や”パイナップル”などが読者には連想されるでしょうか。 |
お日様の中にいる、ってだけじゃなくて「元気いっぱいに育つ」ってイメージもこめられてるんだね! |
この他、湯上がりの裸の子どもを「剥いた玉ねぎ」に喩えたり、 講堂に入ってくる娘を「磨かれし銀の匙」と詠むなど、 個性豊かな比喩は、そのままオリジナリティ溢れた作品につながります。 帰省したこどもと五人で眠る部屋を「ヤリイカの魚群」に喩える宮城県の作者は、きっと漁師さんでしょうか。 |
たとえるものに、作者の個性が自然と表れるね。 |
この「あいのうた」の選者の俵万智さんにも、ご近所から頂いたゴーヤ―を「ティラノサウルスのこども」に喩えた歌があります。 他の誰もまだ詠んだことのない自分だけの比喩を見出す楽しさ。 |
オリジナリティのある、 作者だからこその「比喩」を! |
大事な存在をいつも見つめている作者だからこそ、喩(たと)えられるものがあるのだと思います。 |
こんな作品もあります
湯上がりの 裸の君は つやつやで 剥いた玉ねぎみたいに転がる 海老原順子さん(茨城県) 第4回入選 |
帰省児と五人で寝る部屋 ヤリイカの魚群のやうに夜を泳げり 畠山昭二さん(宮城県) 第5回入選 |
初めてのおつかひに行く吾子の後 刑事のごとく妻は歩きぬ 野村久さん(静岡県) 第4回入選 |
講堂に入り来る娘らは磨かれし 銀の匙のごと整列したり 湯一美さん(兵庫県) 第6回入選 |